誕生日に贈られた「割れない鏡」がユカの新体操レッスンを加速させる
「どうしたの?それ」
仲良しのマイちゃんが包帯を巻いているのを見て、ユカは思わず息を飲んでまじまじと凝視してしまった。
「昨日、不注意でボールぶつけて、割っちゃったんだ、うちの鏡」
マイちゃんはそう言うとペロっと舌を出した。
新体操で使う柔らかいボールで鏡が割れるとはとても思えず、ユカは怪訝な目でマイちゃんの顔を覗きこんだ。
「あ、ボールが直接割ったんじゃなくて、鏡が倒れちゃったの」
それで合点がいった。
「それは大変だったね。ケガ、ひどいの?」
急に心配になってそう聞くと、マイちゃんは「ううん、ちょっと切っただけなのに、お母さんたら大げさで。それよりも鏡だよ。もう使い物にならなくなっちゃったんだもんなぁ。困った、困った」と答えた。
ユカとマイちゃんは新体操教室に通っていて、週に2回、レッスンを受けている。
教室は壁一面が鏡ばりで、2倍の広さに見える。いつも自分たちの姿勢や動きをチェックしながらレッスンを受けているのだが、週に2回だけのレッスンではなかなか上達しないため、ユカたちは自宅でも復習をしていた。
マイちゃんは大分前から練習用の全身鏡を買ってもらい、それで練習していたが、ユカはまだだった。ユカは、毎晩窓に映った自分を見ながら練習していた。
誕生日が近づいて、何かプレゼントは欲しいかと聞かれて、真っ先に「おっきな鏡!」と答えたユカは、両親を驚かせた。まさかそんなに一生懸命新体操に取り組んでいるとは思っていなかったようで、それならもっと早く言ってくれれば良かったのに、と言いながら鏡を買ってくれる約束をしてくれた。
その矢先、マイちゃんが鏡を倒してケガをしてしまったのだった。
ユカは家に帰って両親にマイちゃんの鏡騒動の話をした。
「割れない鏡でもあれば良いんだけどね」
と言うと「そんなものあるわけないじゃない」とお母さんは鼻で笑ったが、お父さんは「いや、案外あるかもしれないぞ」と言ってパソコンで調べだした。
「あった!」
お父さんのその声に、ユカもお母さんもビックリして、2人してパソコンの近くに駆け寄った。
「ほら、見て。『割れない鏡【REFEX】』だって」
そこには、本当に魔法のような「割れない鏡」が紹介されていた。
「『ダンスやスポーツの練習に』って書いてあるぞ」
お父さんが読み上げた。
「へぇ、今は本当に何でもインターネットですぐ見つかる時代なのね」
お母さんも隣で感心している。
「よし、ユカの誕生日プレゼントはこれで決まりだな」
そして、ユカの誕生日に、その鏡はやって来た。
大きな鏡はユカの全身を映してもまだ余裕があって、新体操のポーズを決めたり、くるくると回ったりしてみても、ユカの小柄な身体はすっぽりとその艶やかな鏡面に収まっていた。
これで思う存分新体操の練習ができる。
そんな実感がじわじわ沸いてきたのか、ユカは嬉しさのあまりピョンピョン飛び跳ねてしまった。
柔軟の姿勢も、ステップのバランスも、これからは薄ぼんやりとした窓に映る姿ではなく、バッチリと自分の姿を映してくれるこの「割れない鏡【REFEX】」の前で存分にチェックできる。
いつか全国大会に出場したいと本気で夢見ているユカにとって、最高の誕生日プレゼントとなった。